【台風9号接近】八重山を旅するみなさんへ 過去の"猛威"が教える、いま備えたいこと
猛烈な台風が八重山地方に接近中
猛烈な台風9号(バービー)が、八重山に近づいています。
気象庁によると、6日の時点で台風9号はマリアナ諸島付近にあり、中心気圧910ヘクトパスカル、最大瞬間風速はおよそ80メートル。発達のピークは8日ごろとみられ、そこから北寄りに進路を変えて、今週後半の10から11日ごろに石垣島や西表島、与那国島など八重山地方へ最も近づく見通しです。八重山では9〜10日ごろから波浪警報、10日ごろには暴風警報が発表される見込みで、台風から離れている7日以降も、うねりを伴った高波が出始めます。
「南の島の台風」と聞くと、どこか涼しげな響きすらありますが、八重山の台風は文字どおり別格です。旅行中のみなさんに、そして島で迎える私たちに、過去の記録が何を教えてくれるのか——筆者が勤める新聞社が発行した紙面をひもときながら、振り返ってみます。
島民の記憶に刻まれた三つの台風
2006年9月・台風13号 —— 電柱221本をなぎ倒した夜
石垣島の最大瞬間風速69.9メートル。当時としては1977年の台風5号「ベラ」に次ぐ歴代2位を記録した、忘れられない台風です。編集部の窓ガラスが割れ、機材が水没。非常電源設備のあるホテルの部屋をいくつか借りて、編集作業を行いました。ちなみに、筆者は当時、入社3年目。出身地の名古屋では考えられないような暴風に度肝を抜かれました。新聞も結局、発行できませんでした。
前勢岳の山頂付近に、この年の3月に開設されたばかりの石垣島天文台の観測ドームも破損しました。設計は風速100メートルにも耐えられるということでしたので、どれほどの暴風が吹いたのか想像に難くないと思います。
市街地では車両が横転し、サイドブレーキがあまい自動車は風にあおられて無人で進んでいる光景も目にしました。筆者の住んでいたアパートは1週間もの間、電気や水道が止まりました。プロパンガスはコンクリートの壁に固定されていた金属のチェーンごとなくなっていました。
八重山では57人が重軽傷を負い、家屋68棟が全半壊。強風は電柱221本をなぎ倒し、約1万9000世帯が停電しました。復旧作業は人海戦術で進められましたが、電気が戻るまでにおよそ1週間。断水や制限給水も重なり、農作物を含めた被害総額は7億円を超えました。市消防本部の出動は85回にのぼり、これは長く「郡内最多」の記録として語り継がれることになります。

2006年9月17日付の紙面。台風の影響により1日遅れの報道となりました。この台風を機に、輪転機も回せる大きな発電機が導入されました。
2015年8月・台風15号 —— 観測史上最大の風
そして約9年後。石垣市登野城で最大瞬間風速71.0メートルを観測。1941年の観測開始以来、石垣島で記録された最も強い風でした。筆者は那覇支局へ家族を連れて転勤していたので、実際に体験はしていません。
市内では車が次々と横転し、窓ガラスが割れ、鉄骨づくりの屋根が飛ばされて電柱を倒す——という被害が相次ぎました。最大で約2万1500世帯が停電し、5人が負傷。46世帯93人が指定避難所へ自主避難しました。本社のある登野城では約18時間で294.5ミリの雨。市内全域で給水制限が実施され、まさに「ライフライン直撃」の様相でした。
このとき島の各地では、台風の目に入って一時的に「空が明るくなった」という声が聞かれました。しかし、油断は禁物です。目が抜けたあとの吹き返しの風で、10年前の台風でも無事だった物置が倒された、という住民の証言も本紙に残っています。

2015年8月25日付の紙面。この年は多くの台風が石垣島など八重山地方へ襲来しました。
2015年9月・台風21号 —— 与那国で81.1メートル、国内観測史上4位
同じ年の翌月。今度は与那国島が記録を塗り替えました。与那国町祖納で観測された最大瞬間風速81.1メートルは、1956年の観測開始以来の最大値であるばかりか、全国の観測史上でも4位という凄まじさでした。
与那国町ではほぼ全戸が停電し、電話回線の半数近くが不通に。郡内では石垣・与那国の両空港で68便が欠航し、約4600人に影響が出ました。4600人というと少なく聞こえますが、キャンセルが続出しているので、予約ベースだともっと多かったと思います。石垣島に足止めされた観光客はホテルで「缶詰め」状態となり、「風が強くてコンビニにも行けない」と嘆く声が聞かれました。この年、石垣島に台風が接近したのは、これで実に5度目。台風にたたられた年でした。

2015年9月29日付の紙面。与那国島では最大瞬間風速81.1メートルを記録しました。
旅の前に、そして島に着いてから
過去の記録が示すのは、八重山の台風が「風」「停電」「断水」「交通の遮断」という形で、旅そのものを止めてしまうということです。台風9号は2006年と2015年の台風と同様の勢力を保っています。今、その強い勢力のまま八重山地方へ近づいており、10日(金)から11日(土)にかけて最接近する見込みです。
すでに島にいる方の安全を守るため、「いつ、何をすべきか」を時系列でまとめました。楽しい旅を無事に終えるために、ぜひ心に留めてください。
これからの行動タイムライン
台風対策の肝は、最接近の日から逆算して先回りで動くことです。
7日(火)〜8日(水):海のレジャーは即中止
- 空が晴れていても、海にはすでに強い「うねり」が届いています。ビーチには絶対に近づかないでください。
9日(木):買い出しのデッドライン
- 船便が止まり、島内の物流もストップします。必要な物資は、この日の午前中までにそろえてください。すでにカップ麺などは品薄になりつつあります。新しくなったサンエー石垣シティ店は、従来より大きなバックヤードを備えていますので、その点も店選びの参考になります。
10日(金)〜11日(土):一歩も外に出ない
- 航空便・船便は完全にストップし、暴風警報が発表されます。終日、屋内で安全に過ごしてください。
命と旅程を守るためのチェックリスト
1. 航空券の変更・延泊の相談は「9日(木)」までに
過去には1日で68便が欠航し、数千人が足止めされました。10日前後にかかる便は、欠航が決まってからでは手続きが集中します。先んじて変更を進め、延泊の相談も各施設へ早めにしましょう。
2. 食料・水・「暑さ対策」の買い出し
台風時は、長時間の停電・断水・店舗の臨時休業が当たり前に起こります。早めの準備を。
- 水と3食分の非常食(カップ麺は停電でお湯を沸かせないため、パンやシリアル、缶詰がおすすめ)
- モバイルバッテリーの満充電
- 夏の停電対策(エアコンが止まったときの熱中症を防ぐ、汗拭きシートや電池式ファンなど)
3. レンタカーは安全な場所へ
暴風による横転や、飛来物でのガラス破損が多発します。今回の台風は、北寄りの風から東、南へと推移すると見られます。ドアが風にあおられてヒンジが破損したり、隣の車などにぶつかり傷をつけるなどの事故も発生します。車は建物の陰など安全な場所へ移動し、事前にノンオペレーションチャージ(NOC)など保険内容も確認しておくと安心です。
4. 台風の目に入っても、絶対に外に出ない
台風の目に入ると、一時的に風がやみ、青空がのぞくことがあります。しかし、その直後に襲う「吹き返し」の暴風こそ最も危険です。風が弱まっても外へは出ず、窓から離れて過ごしてください。
5. 正しい情報は「公的機関」から
SNSのデマに惑わされず、石垣島地方気象台や各自治体(石垣市・竹富町・与那国町)の公式防災情報を確認してください。
台風は、島の自然の営みの一部でもあります。サンゴを守り、水資源を潤す——そんな役割を担っているのも事実です。けれど、それは私たちが安全を確保できてこそ。
進路はまだ変わりうるものですが、今回の台風9号は信頼度Aの高い予報とともに近づいています。「たいしたことはないだろう」と構えず、どうか早めの備えを。無事に台風をやり過ごし、島のいちばん美しい表情を、また晴れた空の下で楽しんでいただけますように。
※台風の勢力・進路は変化します。最新の情報は気象庁、石垣島地方気象台、各市町の防災情報で必ずご確認ください。(本文中の過去の被害数値などは、取材当時のものです)